カスタマーハラスメント対応〈スタッフを守る編〉―管理職が知っておきたい線引きと初動

コミュニケーション雑記

どーも。蔵治(Kuraji)です。

これまで「クレーム対応」シリーズで、お客様の声に向き合う方法をお伝えしてきました。その中で「今後触れたい」とお伝えしていたテーマ、「カスタマーハラスメント(カスハラ)」について、今回はお話しします。

最初に大切なことをお伝えします。お客様からのご指摘やクレームの多くは、サービスを良くするための大切な声です。今回の記事は、それらを否定するものではありません。あくまで、正当なクレームの範囲を超えた一部の行為から、現場で働くスタッフをどう守るかというテーマです。

コールセンターで10年以上、現場の最前線に立つスタッフを預かってきた管理職として、知っておきたい線引きと対応の考え方をお伝えします。

カスタマーハラスメントとは何か

「正当なクレーム」と「カスタマーハラスメント」の線引き

まず大切なのが、両者をきちんと区別することです。ここを混同すると、正当なご指摘まで「カスハラだ」と切り捨ててしまい、かえってサービスの質を落としてしまいます。

ざっくり言えば、違いは「要求の内容や手段が、社会通念に照らして妥当かどうか」です。

・正当なクレーム:商品やサービスの不備を指摘し、改善や対応を求めるもの
・カスタマーハラスメント:要求の内容が過剰、または要求の手段・態度が不相当なもの(暴言・威圧・長時間の拘束・土下座の強要など)

「クレームの中身が正しいかどうか」ではなく、「伝え方や要求が常識的な範囲を超えているか」で見るのがポイントです。

管理者が対応に入る目安(早見表)

言葉で説明すると分かりにくいので、目安を表にまとめました。

この記事の表・チェックリストは、私の実務経験をもとに今回整理した参考資料です。記入例は説明用に再構成しています。職場の方針に合わせて調整してください。

この表は、カスタマーハラスメントかどうかを確定させるためのものではありません。管理者が対応に入るかどうかを見極めるための目安です。個々の行動だけでカスハラと断定せず、要求の妥当性、言動、経緯などをあわせて確認してください。なお、該当するかどうかの判断が固まる前でも、スタッフを守るために対応を交代することはできます。

見る場所通常の対応を続けられる状態管理者が確認・介入する状態
要求の内容交換・返金・再説明など、対応の範囲内で応じられる社内の規定や運用では応じられない要求が続く。ただし規定外というだけで過剰とは限らないため、事情や背景を確認する
伝え方語気は強くても、話は要件に沿っている暴言・人格否定・差別的な言動が繰り返される
矛先の向く先商品・サービス・手続き応対品質への指摘を超えて、対応者個人の人格や属性に向かう
時間事実確認に必要な範囲でおさまる話が堂々巡りになり、終わりが見えない
保留・折り返し保留や折り返しに応じてもらえる保留も折り返しも受け入れられない。拒否の理由や経緯を確認するサインとして扱う
右の列に当てはまったからといって、直ちにカスタマーハラスメントと決まるわけではありません。正当なお申し出や、合理的な配慮を求めるご相談を、一律にカスハラとして扱わないでください。

オペレーター個人が狙われることがある

表の中で、特に見落とされやすいのが「矛先の向く先」です。

現場で実際にあったのは、用件ではなくオペレーター個人に矛先が向くケースです。コールセンターは女性スタッフの比率が高いこともあり、男性のお客様が女性オペレーターを見下すような話し方をされる場面がありました。逆に、女性のお客様が女性オペレーターを目の敵にするような場面もありました。

ここで区別したいのは、応対品質への指摘と、人格否定や差別的な言動です。

「説明が分かりにくかった」「言い方が事務的だった」というご指摘は、対応者個人に向いているように見えても、応対品質に対する正当なご指摘です。改善の材料として受け止めます。

一方、性別・年齢・容姿など業務と関係のない属性を持ち出した言動や、人格を否定する言葉が繰り返される場合は、本人の力量の問題ではありません。管理職が引き取ってください。

厚生労働省も対策を呼びかけている

カスタマーハラスメントは、いまや社会全体の課題として認識されています。

厚生労働省も、企業向けにカスタマーハラスメント対策の企業マニュアル(PDF)を公表し、「従業員を守るために企業として対応すべき」という考え方を示しています。つまり、カスハラへの対応は「我慢」ではなく、企業や管理職が取り組むべき正当な責務なのです。すでに企業のHPで対応方針を表明しているケースも多いので、ご自身が勤めている企業のHPを確認いただくことをおすすめします。

なお、カスタマーハラスメントに関する厚生労働省の指針は、2026年10月1日から適用とされています。この記事は2026年9月時点の内容ですので、制度面については必ず最新の情報をご確認ください。

保留すら拒否された、あるカスハラ対応

実際にあった対応を一つご紹介します。

あるお問い合わせで、回答するには社内で一度確認が必要な内容がありました。オペレーターは「一度お預かりして、折り返しご連絡します」と提案したのですが、お客様は即答できないことに、いっさい納得されませんでした。

常に怒鳴っている状態が続き、オペレーターが「少々お待ちください」と保留をご案内しても、その保留すら拒否される。話は堂々巡りで、延々とクレームが続きました。

この時点で、私は強制的に保留にするよう指示を出し、対応を引き継ぎました。

オペレーター本人の努力ではもう収束させられない――そう判断したら、管理職が判断を代わって引き取るしかありません。「もう少し頑張らせてみよう」という判断が、時にスタッフを深く傷つけます。

(引き継いだ後の具体的な対応方法については、クレーム対応〈初動対応編〉とクレーム対応〈感情をしずめる編〉で詳しくお伝えしています)

引き継いだ後、スタッフに現れる3つの反応

対応を引き継いだ後、オペレーターの様子を見ていると、反応は大きく3つに分かれます。

  • ひどく疲労感を感じている:怒鳴られ続けたことで、単純に消耗しきっている
  • 申し訳なく感じている:「自分のせいで上司の手を煩わせた」と気にしている
  • 自分が悪かったのかと責めている:非がないのに、自分の対応に原因があったのではと考え込んでしまう

どのパターンでも共通して言えるのは、放っておいてはいけないということです。特に3つ目の「自責」は、そのままにすると仕事への自信を失わせてしまいます。

なぜ「管理職」が動く必要があるのか

スタッフ一人に抱え込ませない

カスハラ対応で最もやってはいけないのが、現場のスタッフ一人に対応を背負わせることです。

理不尽な要求や暴言を一人で受け続けると、心が消耗し、離職や心の不調につながります。「これはおかしい」と感じた時に、すぐ上司や周囲に引き継げる。その仕組みと空気をつくるのが、管理職の役割です。

「組織として対応する」という姿勢を示す

カスハラに対しては、担当者個人ではなく「組織として対応する」という姿勢が、スタッフの一番の支えになります。

「困ったら代わるからね」「あなたを一人にしないよ」――この一言があるだけで、スタッフは安心して現場に立てます。スタッフが守られていると感じられる職場は、結果的にお客様への対応の質も上がっていきます。

現場でできる対応の「3つの基本」

基本①一人で対応させず、すぐ引き継ぐ

エスカレーション(上司への引き継ぎ)のルールを、あらかじめ決めておきましょう。

「こういう言動があったら上司に代わる」という基準が明確だと、スタッフは迷わず助けを求められます。判断をスタッフ個人に委ねず、組織のルールとして用意しておくことが大切です。

私が設けていたエスカレーションの基準

具体的にどんな基準を設けていたか、実際に運用していたものをお伝えします。ポイントは、カスタマー側とオペレーター側の両面から基準を持つことです。

【カスタマー側のトリガー】
お客様から「上の者に代われ」というキーワードが出た時点で、上席対応に切り替えます。ここで粘らせません。

【オペレーター側のトリガー】

  • 平均的な通話時間を超えている
  • 謝罪の言葉を連続して発している

このどちらかに当てはまったら、管理者がモニタリング(通話の聞き取り)に入ります。そのうえで「オペレーター側ではもう消火できない」と判断したら、上席対応へ切り替えます。

数値と行動で基準を決めておくと、スタッフが「助けを求めていいのか」と迷わずに済みます。

ここまでお伝えした基準を、表の形へ整理しました。エスカレーションのルールを作るときのたたき台としてお使いください。

区分トリガー気づく人すぐやること
カスタマー側「上の者に代われ」と言われた対応者本人粘らせず、その場で上席対応に切り替える
オペレーター側平均通話時間を超えた管理者モニタリングに入る
オペレーター側謝罪の言葉を連続して発している管理者モニタリングに入る
管理者の判断本人ではもう収束できないと判断した管理者強制的に保留を指示し、対応を引き取る
環境づくり新人が対応している―管理者の近く、またはベテランの隣に配置しておく
カスタマー側とオペレーター側の両面からトリガーを持つのがポイントです。

席の配置という、地味だけれど効く工夫

もう一つ、私が意識していた工夫があります。それは新人オペレーターの席の配置です。

新人は、管理者の近くに配置するか、ベテランオペレーターの隣に配置するようにしていました。

理由はシンプルです。

  • 管理者の近くなら、異変にいち早く気づける
  • ベテランの隣なら、本人ではなく周りがアラートを出してくれる

ここが重要なポイントです。困っているスタッフ本人は、意外と助けを求められません。真面目な人ほど「自分でなんとかしなければ」と抱え込みます。だからこそ、本人が声を上げなくても、周囲が気づける環境を先に作っておくのです。

基本②記録を残す

カスハラと思われる言動があった場合は、日時・内容・状況を記録に残しておきましょう。

記録は、後から事実を確認するためにも、対応を検討するためにも重要です。「言った・言わない」を避け、組織として冷静に判断するための材料になります。

基本③毅然と、しかし冷静に対応する

カスハラに対しては、要求を安易に飲まず、毅然とした態度で臨むことが基本です。ただし、感情的に言い返すのは逆効果です。

「ご要望には沿いかねます」と、落ち着いた口調で、しかしはっきりと伝える。冷静さを保つことが、相手の興奮をエスカレートさせない一番の方法です。

対応が終わった後のケアと、私が今も悩んでいること

カスハラに限らず、クレーム対応をしたオペレーターには、必ず労いの声をかけるようにしていました。

そして、次の業務に入る前に一呼吸置ける時間を作る。トイレ休憩でも構いません。数分でいいので、気持ちを切り替える時間を挟むことが大切です。理不尽な言葉を浴びた直後に、すぐ次のお客様の電話を取らせるのは酷です。

引き継いだ日にやることチェックリスト

対応を引き取ったあと、その日のうちにやっていたことを、チェックリストの形に整理しました。忙しいと抜けやすいので、私は頭の中でこの順番に確認していました。

  • 労いの声をかけた
  • 次の対応に入る前に、数分の休憩を挟ませた
  • 3つの反応(疲労・申し訳なさ・自責)のどれに当てはまるか確認した
  • 「自責」が見えたら、本人に非がないことを言葉ではっきり伝えた
  • 日時・内容・状況を記録に残した
  • 再入電に備えて、チームの管理者間で共有をした

最後の「管理者間での共有」は特に大切です。同じお客様から再び入電があったとき、別の管理者が一から対応することになると、スタッフはまた同じ思いをします。

最後に、正直な気持ちも書いておきます。

「もっと早く守ってあげたかった」――これは、毎回思います。

ただ、いつも簡単には割り切れません。早く引き取れば、スタッフは傷つかずに済みます。でも、対応しきる経験を積むことが、その人の成長にもつながる。スタッフを守ることと、スタッフの成長。この2つを天秤にかける判断は、何年経っても難しいと感じています。

正解はないのかもしれません。それでも、迷ったときはオペレーターを守る方に舵をきる――それが、10年やってきた私なりの結論です。

まとめ

カスタマーハラスメント対応の目的は、お客様と戦うことではなく、スタッフを守ることです。

①正当なクレームとカスハラを線引きする(伝え方・要求が常識的範囲を超えているか)
②スタッフ一人に抱え込ませず、組織として対応する
③エスカレーション・記録・毅然とした冷静な対応を基本にする

お客様の大切な声には真摯に向き合う。その一方で、働く仲間が理不尽に傷つけられることは見過ごさない。その両方のバランスを取ることが、これからの管理職に求められる姿勢だと思います。

コミュニケーション雑記として掲載しているクレーム対応シリーズとあわせて、現場スタッフを守るヒントにしていただけたら嬉しいです。

クレーム対応〈初動対応編〉―最初のつかみで「鎮火」か「炎上」かが決まる
クレーム対応〈感情をしずめる編〉―怒りのピークを越えさせる「3つのワードチョイス」
クレーム対応〈再発防止編〉―同じクレームを二度と起こさない「3つのステップ」

それではまた!!

この記事を書いた人
蔵治 英幸

コールセンター業界で管理職として10年以上。100〜500名規模の複数現場で、スタッフ育成・1on1・面談・クレーム/カスタマーハラスメント対応・新規業務の立ち上げ・管理者マネジメントを経験してきました。記事は自身の現場経験をもとに、成功談だけでなく失敗談も含めて書いています。

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